建築事務所の先生様


「部屋はいくつくらい?」

一番嫌な質問だった。 ハウスメーカーは一等最初に必ずそれを聞いてくるから嫌なんだ、といったら不動産屋さんが建築設計事務所の先生を紹介しましょうと、紹介された先生が、今この目の前で、それも一番最初に聞いて下さったご質問である。

本当のところ、設計事務所を構えた先生なんだから、どんなふうに暮らしたいのかをスルドク(かどうかは分からないが…)突っ込んでくれるのだろうと、期待と不安(突っ込まれて答えられなかったら…という不安)で、若干の緊張を抱いて、約束の時間より早く待ち合わせの不動産屋さんに着いてしまったのであった。

ところが…
一番最初の質問が、これである。 なんじゃそりゃあ?! それじゃあ、べつに一番嫌なハウスメーカーといっしょじゃないか。設計事務所の先生だって、我々に期待させた分、もっと質が悪い。

それからのはなしはもう最悪。
平面的に暮らしたいから、2Fにキッチンも居間もお風呂も寝室もトイレも全部もってきたい、と云えば、2Fにお風呂をもってくると必ず段差が出てしまって云々…。突然なんでお風呂のはなしなの?と、こちらはもう、興ざめもいいところ。風呂に段差が出るとバリアフリーじゃないから駄目だ、ということらしい。今は、バリアフリーなんだからお風呂も段差が出ては駄目、と風呂の段差について熱心にお話しされている。
でもね、この土地では、1F駐車場で2Fが2Fが生活の中心になるような暮らし方になると云ってるでしょ?段差をつくらず暮らすなんて難しいんですけど。2Fに上って暮らさなきゃいけないこと自体許されないことなのですか?こんな狭い土地ではなくて、ひろーい土地に平屋で建てて、全く段差の無い家じゃないといけないってことですか?
バリアフリーって、とにかく段差が無いってことなのか?もっと広い意味のはずじゃあないのでしょうか?
それでも、先生様はなぜかお風呂にこだわって、2Fのお風呂の段差をとるためにはどうするかを熱心に考えていらっしゃる。
…ついに、ズブの素人であるわたし(ツマ)も、吹き出してしまった。 「なんで、いまこんなに熱心に風呂の話なの?」 あきれて笑うしかない。
因みに、2Fの和室も必ず段差が出るから駄目、なんだそうだ。

風呂の話が終わったと思えば、外壁材のはなしになり、無機質なかんじがいい、というとなんとかという材料があるという。オットがガルバリウムがいい、というと、ガルバリウムを知らなかった…。

とにかく部分的な話ばかりで、全体的な話がでてこない。 先生様からの提案も期待できそうに無く、どんどん時間ばかりが過ぎていく。オットもしびれをきらして、自分で考えていたプランを紙に描いて、こんなんが希望です、と云ってみた。
オットは、900スパンで図面を描き、建ぺい率がぎりぎりの99.5%(スゴイ!)にしていた。先生様は、在来工法では910スパンだから建ぺいがオーバーすると云いだした。べつに900スパンだっていいのではないか、と云っても910だ、と言い張る。
なぜ、か。 先生様は、M井ホームの設計を請け負っているとのこと。それが仕事のほとんどのようだ。だから、独立した設計事務所でありながら、ハウスメーカーの色がすっかり染み付いてしまって、ハウスメーカーの仕事でないのにもかかわらず、反射的にいつもの仕事の感覚になっているのである。 これでは、ハウスメーカーに頼んだのと変わらないし、といってハウスメーカーに頼んでいるわけではないのでなおさら質が悪い。
結局、いつも使う工法、いつも使う材料しかわからない。
家を売るために図面をこなすだけの考え方で話をされても、わたしたちが相談したいこと、わたしたちが望むこと、わたしたちが創りたいもの、をわかってくれるわけがない。
M井ホームの仕事がホントの仕事で、ちょっとこずかい稼ぎにぱぱっと図面描いちゃおうかな、という片手間な気持ちなのでは、とも思われてきて、もう嫌になっていた。
もう駄目だと、半分腹立たしく思いながら、オットが自分が考えている図面を描きつつ、思いついたアイディアをたまに云ってみる。
たとえば、「2Fの通路の床を強化ガラスにしたら、下も明るくていいでしょう?」と。
先生様は困った顔をして、コストが高いとかなんとか云っている。
さらにオットは「そのガラスの一部がカポッと外れて下に荷物をおろせたら楽でしょ?」と続ける。
先生は困り果てた顔をして絶句。絶句するかなあ、プロじゃないのか?!

先生様にお会いする前、
「我々は手ごわいよ」と云ったら、不動産屋のCさんから、「そんなこと云ってても、O先生に、こてんぱんにやられっちゃいますよ」、と云われた。
お客さんをこてんぱんにやっつける専門家なんて変な話だと思ったが、まあ専門家の知識に素人なんてかなわないよ、ということなのだろうと思っていたのだが、まさしく、今、先生様はオットにこてんぱんにやられっちゃっているのであります。

結局、だらだらと終わりがなく、夜の7時過ぎまで話が続き、くたくたになって帰ってきた。
なにが、設計事務所の先生だってんだ!サギじゃないか!絶望するふたりであった。

後日談。
プランができたと云われもらった図面は、オットがあのとき落書きした図面の清書に過ぎなかった。
ただし、スパンはしっかり910で、オーバーする分、家の一部分が欠けていた。(欠けていた部分に私がここだけは譲れないと思っている長い机が入っていたのは許せない!)
こっちが、最悪、と思っていると同じく、O先生様も最悪の客だ、と思っているのであろう。 家に対する考え方が全く違っている。
パートナーになり得るはずがない。



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